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夜の庭 第四章 -7- |
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翌日もシルヴィはずっと屋敷にいた。昨日のうちにグリニッジには遣いをやって、アンドルーにはエリザベスが気づいたことを伝えてあった。訪問時間でなくても良いのでいつでも来るようにとメッセージを添えておいたのだが、案の定、朝からアンドルーはやって来た。きっと、いてもたってもいられなかったのだろうとシルヴィは思った。 アンドルーはエリザベスが好きな薔薇とルーバーブのシロップ漬けを持ってきていた。薔薇はともかく、ルーバーブのシロップ漬け? そんな子供が喜ぶような物を……とシルヴィは思った。しかし、それを見た時のエリザベスの喜びようといったら、以前、ネックレスを贈った時とは比較にならないほどだ。あの満面の笑み。彼女は本当に嬉しい時、あんな風に微笑む。 わかってはいても、アンドルーとエリザベスが二人で親しげにしていると、シルヴィは面白くなかった。あの神々しい金髪の美しい男は、甘い笑顔で絶対にエリザベスにはノーと言わない。エリザベスも自分といる時とは違って自然だ。わかっているのに、こんなに嫉妬する自分がおかしい。本当に気が変になりそうだ。シルヴィはたまらなくなって二人のいるエリザベスの寝室をそっと出ていこうとした。 「ロード・シルヴィ。ああ、僕はもう帰ります。あなたが嫉妬に狂うのを見るのは楽しいが、後でエリザベスの具合が悪くなりそうなので」 この男……! わかってやっているのだ。シルヴィはアンドルーを思わずにらんだ。 「ほらね。だから言っただろう? 彼は君にぞっこんなのだよ。リジー。何も心配しなくていいからね」 アンドルーはにこにこして、エリザベスの唇にキスした。ああ、また、頭に血が上る。シルヴィはやり場のない怒りをそれ以上膨らまさないように横を向いた。 「お休み、リジー。少し眠るといい」 アンドルーはまるで大事な人形に別れを告げるように、頬に手をあて、名残惜しそうにベッドの傍を離れた。 寝室を出て、中央の階段を下り、玄関ホールに出ると、アンドルーはシルヴィの方を振り返って手を差し出した。 「まさか、果たし状をよこせなんて、もう言わないでしょう?」 シルヴィは気分は良くなかったが、それでも気を取り直し、嫌味なくらいきれいな顔をしたその男の手を握った。 「エリザベスのことを頼みます」 「時々は訪ねてきてやってくれ。私はここを留守にすることも多い」 シルヴィはアンドルーにそれでも寛大なところを見せたつもりだった。 「では誰か連れを探さねば。あなたのように噂が立ってもこまりますしね」 全く、一言多い男だ。しかし、あの悪気のない天使のような笑顔がこの男を絶対悪者にはしない。シルヴィはアンドルーがエリザベスの兄で良かったと、内心ほっとしていた。 |
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