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雪待月 2 |
泉がイアンと別れて上野の駅に着いたのは、十二時前だった。明日は二講目からだが、朝は病院に行く必要があった。部屋に戻ったら、一時間ほど例の曲のスコアの続きを書く。二時頃までに寝られればそれでいい。泉がアパートの前までやってきたとき、自分の部屋の前に誰かがいるのに気づいた。 だんだん近づいていって、アパートの入り口まで来た時、泉はようやくそれが廉だとわかった。 泉と廉は視線をまっすぐにつないでいた。部屋の前まで来て、泉は言った。 「私の部屋には来ないって言ってたのに……」 廉は全く笑っていない。怒っているのだ。 「君の部屋に来ないなんて言ってない。僕は君を帰さないと言ったんだ」 「――そうですか……」 泉は反論せず、部屋の鍵を開けた。「どうぞ」 真っ暗な部屋の中、泉は先に入った廉の後ろで廊下と部屋の明かりを点けた。廉の部屋に比べたら何と狭いことか。それでも自分の城ではあるけれど。泉は廉に部屋の隅に置かれている籐の椅子に座ってくれと言った。お茶でも淹れよう。泉は小さいキッチンにたって湯を沸かす用意をした。 「緑茶でいいですか?」 「いらない。ここに座れよ」 泉は仕方なく廉が座っている椅子の前にやってきて、ガラスのテーブルの正面に置かれた対の椅子に浅く腰掛けた。 「で、あの男はなに?」 低い声。廉が怒っているときはいつもそうだ。 「何って言われても……」 泉はイアンがUSから来た製作会社のコーディネータだと言うことを繰り返した。あの場にはいなかったが、ワン・セブンスの安藤えみも一緒に来ていたが、彼女が先に帰ってしまったことも説明した。 「だったら君も一緒に帰ればよかったのに」 「そんな……食事の途中でそんなことできないわ」 「一緒にいたかったのか、あの男と」 「廉さん?」 わかっている。泉は思った。彼は激しく嫉妬しているのだ。前からそうだった。男性と二人でいるところを見ると、必ず後で不機嫌になる。友人たちと一緒にいるときでさえそうだ。自分とは時間を作らないのにと言って怒るのだ。 「これから僕の部屋に行く?」 突然そう訊かれて泉は首を振った。 「これからまだやらなきゃいけないこともあるし、明日も学校ですから」 「――じゃ、仕方ない」 廉が立ち上がった。帰るのかと思い、泉も立ち上がると、突然、廉が泉を抱いてキスした。そのままずるずると奥においてあるベッドへ押して行こうとするが、泉が抵抗したので、廉は仕方なく身体を抱き上げ、ベッドに運んだ。 ベッドの上に放りだした泉の上にすぐ覆いかぶさって、廉はまたむさぼるように唇を合わせた。舌がすぐ入ってきてきつく吸われると、泉は仰向けになっているのに、自分の頭がぐらりと回るのを感じた。 「君はいつも……この唇で…男を誘惑してる」 「へぇ……そう…なんですか……」 ひどい言い方。そんなに怒ってるの。廉の手が腹の上を探り、薄いブラウスのすそを引っ張りあげる。 「や、待って。廉さん。先に、シャワー……」 廉はいいかけた泉の口をまた自分の口でふさいだ。 「だめ」 下着の上でその手が身体を撫で回す。廉は邪魔なブラウスを何とかしようとして、もう一度手を外にやり、ボタンを全部はずした。ブラをずらして片方の乳房を取って揉み、もう片方を口に含む。あまった手で泉のスカート下を探り、ストッキングも無理やりずり下ろしてショーツの中に手を入れた。ひんやり冷たい指が泉の敏感なところを細かく刺激する。たまらなくなって泉は小さく声をもらした。 「もう濡れてきてる……」 彼にそうされると、あっという間に感じてしまう自分が恥ずかしい。廉の指はショーツをよけて泉の中に入ってきた。自分の身体の中をかき回す。指を出し入れするのに下着が邪魔になった廉は泉のショーツを引っ張って脱がせた。 それから廉は何も言わず、泉の上にまたがり動けなくしてから腕に引っかかっていたブラウスを取った。そしてスカートも剥ぎ取って、キャミソールだけにし、脇からずりあげたブラを抜き取った。自分も下着以外を全て脱いで泉の肌に直接触れる。再び下着の上から乳房を手に包み、乳首をこね回した。薄い生地の上から口に含み、歯で甘噛みされると泉は思わず声をあげそうになった。キャミソールのすそを捲り上げられ下半身が丸見えになる。泉は恥ずかしくてたまらず、廉の腕を止めるように手首を握った。それを簡単に取り払って、廉は泉の手を頭の上に交差させ、片方の手で押さえつけた。胸を執拗に攻撃し、廉は再び手をひざの間に割り込ませる。閉じようとする泉の足を自分の足でしっかり抑えて、廉はそこに集中していた。出し入れする指が二本になる。 「あぁ…や……」 廉はわざと音を立てるようにして、泉の身体の中に指を出し入れしていた。泉は自分が弄ばれていることがたまらなく恥ずかしいのと、一方で味わっている快感で気が変になりそうだった。消え入りそうなやめてと言うお願いと官能のあえぎが交互に出てしまう。執拗に指で攻撃が繰り返され、廉は泉がそれだけでいってしまいそうになるのを寸前で止めた。 「やめていいの?」 泉の真上で廉が訊ねる。 「やめて欲しいの? 泉」 自分の乱れた呼吸を抑えながら、泉は恥ずかしさに耐えられず、泣きそうだった。身体は正直だ。もっと欲しいと言っている。どうしてだろう……何度もこうして身体を重ねているのに。こんな風に逃げようのない状況でも逃げ出したくなる。 「……どうして欲しいの? 泉。自分で言ってごらん」 涙が一つぶこぼれた。泉はかすれた声でようやく言った。 「いじわる……」 「それが君の答えか……意地悪なのは僕か? じゃあ、ちゃんと答えが出るまで続けよう」 廉は今度は泉の身体を抱えあげてベッドの上に座らせ、後ろ抱きにした。キャミソールの上から乳房を揉み上げ、背中からうなじを舐め上げる。耐えるように身体を硬くしている泉に廉は言った。 「リラックスして。君が素直になれば、もっと楽に気持ち良くなれるよ」 廉の大きな手がまるでマッサージをするように泉の身体を撫で回す。いい加減、下着の上からの感触に飽きた廉はそれを脱がせて泉を裸にした。身を隠すものがなくなってしまった泉は自分の身体を隠すように腕を巻きつけたが、廉がそれをふりほどいた。 自分が苛めているかのように振る舞い続ける泉を廉は容赦しなかった。後ろ抱きのまま、泉の身体を少し持ち上げる。自分の硬くなったものを泉の尻に押し当てて座らせ、良くわからせるようにしてから、更に泉の乳首と秘部を交互に弄んだ。 「泉、ほら…ぴんと立ってる。感じるだろ?……それにここも」 廉は乳首の先を指ではじいて、秘部にまたその指を差し込んだ。音を立てるほど濡れている……泉は真っ赤になって顔をそむけたが、廉はあごを取って後ろから唇をあわせた。 「泉……すごい格好だね」 廉は口を吸うのも下に差し入れた指を出し入れするのも止めなかった。廉は自分を辱めて楽しんでいる。自分が逃げられないのを知ってて。自分が辱められながらも、その気持ちよさに落ちているのを知ってて。 「……廉さん、お願い……もうだめ……」 泉は背中を舐められていた。その間ずっと二本の指が下のほうで中をかき回している。 「ふうん……どうだめなの? どうして欲しいのか、自分で言うなら許してあげるよ」 廉はそう言いながら指をさらに奥に押し込んで動かした。たまらず声が漏れる。 「さあ、言って」 泉はそれでも息を殺すようにするだけだった。廉はそれを見て、泉の身体を仰向けにし、下着を脱いでゆっくり自分を泉の身体に割り込ませた。 「これで妊娠したら……それこそ僕の思い通りだ」 日にちからして、多分それはない。と思いはしたが、泉はそれは言わなかった。廉が入ってくる……泉は自分の中に廉が入ってくるその幸せな一瞬に身体をそらせた。思わず声が漏れる。ああ、彼でいっぱい。自分とは違う人間と一つになるその感覚。彼と身体で繋がっている。何度味わっても、これほど幸せな時間はない。 しかし、廉は泉の中に自分を全て収めると、そのまま泉の下半身に自分の下半身をぴったりつけ、片方の手で肩を抑えて全く動けないようにした。そして、自分の唇を泉の唇に落として余った手で乳房を掌に取った。 「意地悪なのは僕か?」 泉は廉を見た。どうしてそんなこと訊くの? 廉は泉の中にいたが全く身体を動かしていなかった。動いているのは乳房を取っている手だけだ。 「泉……意地悪なのは僕? それとも君?」 何も答えない泉に廉は小さくため息をついた。 「強情だな」 廉は乳房に両方の手を乗せてそれをしばらく揉みしだき、片方の手を下の方へ持ってきて、下半身を全く動かさないまま、自分が入っているところのすぐ上にある突起を小刻みに刺激した。泉はたまらず声を上げた。 自分が感じている姿を廉に観察されている。下半身は廉に貫かれていて全く身動きできないのに。泉は恥ずかしさで気が変になると思った。 「どうして欲しいの? 動いて欲しいの? やめて欲しいの? 君の言うとおりにするよ」 廉の指が突起をつまんで弄ぶ。ひねったりはじいたり、それはひとしきり続き、時々思い出したように乳首が吸われたり、口に舌を入れられたりした。廉がいるところは熱く、動きもしないのに、自分の中で怒張していくようだ。自分が何かを感じるたび、同じように廉が反応して身体を押し広げられる感じがする。長い長い愛撫の後、泉はたまらなくなって言った。 「……廉さん……お願い…」 「お願い……何?」 「……動いて……」 消え入りそうな声だった。廉は口の端をちょっと上げ、泉の髪を額の上から優しくなでつけた。 「動いて欲しいの? いいよ。どんな風に? 激しく? やさしく?」 廉の唇がまた首筋を這う。 「……動いて……激しく……して」 廉はにやりと笑って動き出した。緩やかだったのははじめの数回、その後は身体が壊れるかと思うほど廉は激しく身体を打ちつけた。我慢に我慢を重ねていたので、二人はあっという間に達した。しかし終わってすぐ、廉はティシュで息が上がって動けない泉と自分の後始末をし、ほとんど休むまもなく、泉の身体を自分の方へ引き寄せてすぐ中に入りなおした。泉はようやく自分の呼吸を取り戻したばかりで、廉がまた始めるとは思っていなかった。驚いて身体を引こうとしたが、廉が足を引っ張る力が強くて逃げられない。 「激しくしてって言っただろ? あんなのは激しいうちに入らない」 行為自体は確かに短かった。しかし、それまでにあんなにじらされて、耐えられないほどだったのに……泉は自分が口走ったことを後悔していた。 泉がそう思ううちにも廉は泉を責め続けた。さっきよりもっと深く入ってくる。二度目なのに、どうしてこんなに? 泉は自分の身体が持たないのではないかと思った。廉は泉の肩を腕の下から押さえつけ、泉の身体が逃げないようにして、自分を更に深く入れた。肌が音を立てるほど下半身を強く出し入れしながら、首筋に歯をたてた。 しばらく激しく動いた後、今度はベッドの上に座って、泉を自分の上に座らせた。泉は彼自身が自分の身体の中の奥深く、行き止まりになっているところまでしっかり埋めていた。廉が泉の腰をつかみ、上下に動かす。彼が中でうごめく。そのたびに泉の身体は持ち上がり、深く貫かれて、泉は抑えることも出来ずどうしようもなく声をあげてしまうのだった。 「……廉さん……もうだめ…だめよ……」 廉はほとんど息もあがっていない。腰を支えている手が乳房をもてあそんだのは一瞬だった。その後すぐ、また泉の腰を掴んだ。そのまま激しく上下に動かされる。ああ、もう耐えられない。この感じ。廉が自分の身体の中を埋め尽くしている。泉は自分の声が出るのを止められず、まるで痙攣するように身体を震わせ、のけぞった。 泉は廉がどうなっているのか考える余裕などなかった。わかっているのはただ自分が達してしまったということだけ。おそらくそれを見て取った廉は自分を引き抜いて泉を一度ベッドに横たえた。 何も考えられない……ただ全速力で走ったような気分だ。しかし、それはまだ終わっていなかった。廉は泉を横抱きにして今度は後ろから入ってきた。胸を抱えられるようにして下から突き上げられると、また別の感覚がやってきた。 「あぁ……廉さん……どうして……」 廉は泉を背後から攻めながら髪を払って耳を後ろから舐めた。 「ひ……ぁ」 乳房を触っていない手がまた下の方へ伸びてきて、さっき苛めた突起を指で弄ぶ。 「君が言ったんだ。激しくしてって……」 耳元で廉がささやいた。 「……い…や……!廉さん……やめて……」 それを聞いた廉はさらに激しく泉を攻め立てた。泉があえぎながら名前を呼ぶと、廉はさらに興奮して動きを増すようだった。自分の泣くような声と廉と繋がっているところが立てる音だけがいやらしく部屋に響く。 泉の目じりから涙が落ちていた。それを舌でぺろりと舐め、廉は言った。 「僕はずっといい人をやってるつもりはないから」 そうしてまた一旦泉から離れて姿勢をもどして上に戻り、中に入った。泉はもう力もなく、ただされるがままだった。 泉の頬や唇や額にキスを繰り返しながら、廉は自分で緩やかに動いて最後に自分を吐き出した。始末を済ませた後も、泉はうつぶせになって肩を震わせて泣いていた。もう何がなんだかわからない。明日、起きられるだろうか。今までこんなに酷くされたことはない。狭いベッドの上で、泉は廉の方を向こうとしなかった。それでも自分を抱えるように伸びてくる優しい腕を振り払うことはせず、泉は眠りについた。 |
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